【古事記から令和を読み解く】河合隼雄『神話と日本人の心』

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小説、漫画、映画など、あらゆる物語は二度楽しめるということをご存知でしょうか?

一度目は、ワクワク・ドキドキ、その物語に没入して「物語自体」を楽しむ方法。
二度目は、登場人物の動きや話の筋という点で物語を俯瞰してみて、「物語のプロット」を楽しむ方法です。

今回のテーマは日本神話。具体的には古事記と日本書紀です。
これらの神話の「物語自体」を楽しみたい方は、とりあえずあっちゃんの動画を見てみましょう。

そして、「物語のプロット」を楽しむというのは、ちょっとわかりずらいですよね。これは隠れた作者の意図や狙いを明らかにする一種の謎解きのようなもので、この楽しさを知ってしまうとハマります。

どんな感じかを知りたい方は、こういう動画を見てみましょう。面白いです(笑)

今回ご紹介するのは、河合隼雄の『神話と日本人の心』。
河合隼雄は日本を代表する心理学者であり、ユング研究者です。

日本神話というと「なんか難しそー、退屈そー」とか「天皇バンザイの軍国主義っぽいので嫌だなぁ」などというイメージがあるかもしれませんが、この本はそんな印象とは程遠いのでご安心ください。

古事記を中心として代表的な日本神話の物語を紹介しつつ(←あっちゃん動画の観点)、
超一流の視点で神話に画された古来から続く日本人の精神性を紐解いていくという一冊。

そして、筆者が古事記から考察する「日本人の心」の指摘が、まじでガチですごいんです(笑)

本書の草案は1965年頃、すなわち60年前くらいに書かれたものなのですが、そこで指摘される日本人の精神性が、「2020年代、令和の時代、自由民主主義、資本主義を標榜する日本社会」においてもバリバリあてはまるものなんですね。

しかも、「精神性」とはいっても個人の「心」の問題ではなく、
経済やビジネスの世界においてもあてはまるんでやばいんです。

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あっちゃん動画=物語としての面白さ

×岡田さん動画=物語を読み解くとはこういうこと

神話を楽しむ方法は3つある
1 文章を楽しむ
2 歴史的事実と関連させる
3 そこにあらわれた精神性を探る→どんなインサイトが得られるのか

日本神話の特徴

2つの動画を見て日本神話の楽しみ方をイメージできたら、さっそく本題に入っていきましょう。

河合は本書の中で様々な考察を行っていますが、中でも日本神話の特徴として、以下の3つの特徴をあ挙げています。

①トライアッド構造
②中空均衡構造

古事記に合わられるトライアッド構造

本書の記述の中心は、「神代」(神々の時代)と呼ばれる古事記の上巻です。

河合が最も注目するのは、古事記の中で一貫して現れる重要な神々のトライアッド構造です。

トライアッドとは「三つ組、3人組 、3和音」のこと。
日本神話においては、「三柱の神」(神様の数え方は「柱」です)が登場します。

まず、

第一に、古事記における「世界のはじまり」は以下のように記載されています。

天地(あめつち)初はじめて発(ひら)けし時、高天原(たかまのはら)に成れる神の名は、アメノミナカヌシ(天之御中主)。次に、タカミムスビ(高御産巣日)。カミムスビ()。

つまり、古事記は「アメノミナカヌシ」「タカミムスビ」「カミムスビノカミ」という三神の登場から世界が始まるのです。これが古事記に現れる最初のトライアッドです。
タカミムスビはアマテラスの後見的な役割を担う神で、古事記にもこの後度々登場します。一方、カミムスビはスサノヲやオオクニヌシなど出雲の神話によく登場することになります。

第二のトライアッドは、アマテラス(天照大御神)、ツクヨミ(月読命)、スサノヲ(建速須佐之男命)。

この三神は、イザナキ(伊邪那岐命)が妻イザナミ(伊邪那岐命)と別れの言葉を交わして冥界から帰ってきた後、死後の世界の汚れをみそぎをしようと川で顔を洗う際に生まれます。
具体的には、イザナキが左目を洗う時にアマテラスが生まれ、右目を洗う時にツクヨミが、鼻を洗う時にスサノヲが生まれるのです。

この三神の中でも、特にアマテラスとスサノヲは、皆さんもよくご存知ですよね。
古事記では、この二柱が対決をした後、有名な「天の岩戸」の物語につながっていきます。

第三のトライアッドは、ホデリ(火照命)、ホスセリ(火須勢理命)、ホヲリ(火遠理命)です。
この三神は、「出雲のオオクニヌシ(大国主命)による国譲り」の後、天孫ニニギが降臨してコノハナサクヤヒメと結婚し、コノハナサクヤヒメが炎が燃え盛る中で出産をすることで誕生します。
(漢字を見れば分かる通り、三神とも「火」に関連した名前がついています。)

ホデリは海幸彦、ホヲリは山幸彦とも呼ばれ、この後、海幸・山幸を巡る有名な話が展開されていきます。

以上、古事記に登場する代表的な3つのトライアッドを整理すると、下の表のようになります。

第1のトライアッドタカミムスビアメノミナカヌシカミムスビ独神として生成
第2のトライアッドアマテラス(天)ツクヨミスサノヲ(地)父親から水中出産
第3のトライアッドホデリ(海)ホスセリホヲリ(山)母親から火中出産
出典)河合隼雄『中空構造日本の深層』中央公論社、1982

神話と言えば、現代人からすると神々が奇想天外、荒唐無稽な行動を好き勝手にしているようなイメージもありますが、このように整理すると、実はその物語の背後に、非常に緻密な意図と計算が隠れていることに気付かされます。

河合は古事記に隠された意図を「日本人の精神性」という観点から読み解く超一流の学者であり、その理論が現代を生きる我々にとっても全く色褪せないという点が面白いところです。

では、河合の考察はどんなものなのでしょうか?

トライアッド構造からわかること

以上のように、長い古事記の神代の物語も、3種類のトライアッド構造を中核に据えることで、作者の意図が非常にわかりやすくなります。
河合はこれらのトライアッド構造について様々な考察をしていますが、ここでは2つだけ、特に重要なポイントを紹介したいと思います。

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古事記の神話の基本構造は「中空構造」である。

古事記においては、キリスト教における神話のような「絶対神」や、ギリシア神話のゼウスのような「主神」というものが存在しないという点が大きな特徴です。

それだけでなく、神話を構成する様々な要素においても、どれか一つが善・正義であり、それと違うものが悪であるという捉え方をしていません。その結果、様々な要素がすべて「バランス」されています。

その証拠に、先ほどの表をもう一度じっくり見てみてください。

第2のトライアッドの三神は全て「父親」から生まれますが、第3のトライアッドは「母親」から生まれます。これは、男性的・父性的な権力と女性的・母性的な権力を意図的にバランスさせている一例です。

また、第2のトライアッドは「水」から生まれるのに対し、第3のトライアッドは「火」から生まれます。
さらに、天上の世界を代表するアマテラスと地下の世界を代表するスサノヲは、どちらかが絶対的な権力を握るわけでも一方が他方を抹殺するわけでもなく、最終的にバランスした形で存在します。
海幸であるホデリと山幸であるホヲリも似たような関係性で、対をなしてはいるものの、「両者が対決をしてどちらから勝つ」というようなストーリーではなく、あくまで最終的には両者が調和の取れた関係性で物語は終わるのです。

以上は古事記の中に現れる「バランス(=均衡)」構造の一例ですが、このような巧妙なバランス感覚が古事記の最大の特徴です。

これは、例えば、「光であり善の神アフラ・マズダーと、闇であり悪の神アンラ・マンユの抗争の場が、この世界である」と考えるゾロアスター教の世界観と対比すると、特徴が明らかになりますね。

中空構造とは

上述のとおり、河合は古事記の神話を3つのトライアッド構造を中心に据えて解釈しますが、その解釈によって導き出される「日本神話最大の特徴」は、中空均衡構造だといいます。

以上で「均衡」の方はイメージがついたと思いますが、「中空」(中はからっぽ)とは、どういう意味でしょうか?

中空均衡構造とは、簡単にいうと、「中身はからっぽだけれど、絶妙なバランスを溜まっている構造」のこと。

中心に強力な存在があってその力や原理によって全体を統一してゆこうとするのではなく、中心がからであっても、全体としてバランスがとれている全体を構成するここの神々の間で微妙なバランスが保たれ、一時的にしろ中心に立とうとする神があるとしても、それは長続きすることなく、適当な相互作用によって、全体のバランスが回復される。

いずれかの神が絶対的な善や正義を代表するとか、絶対的な権力をもつということがない。

この中空均衡構造は、

実は先ほど紹介したこの表、ちょっと奇妙なことに気づきませんか?

第1のトライアッドタカミムスビアメノミナカヌシカミムスビ独神として生成
第2のトライアッドアマテラス(天)ツクヨミスサノヲ(地)父親から水中出産
第3のトライアッドホデリ(海)ホスセリホヲリ(山)母親から火中出産
出典)河合隼雄『中空構造日本の深層』中央公論社、1982

・・・・それは、全てのトライアッドについて「ほぼ何もしない神」が一柱ずついること。
実は先ほどの要約に登場しないだけでなく、実際の古事記でも何も語られないのです。

それは、第1のトライアッドのアメノミナカヌシ、第2のトライアッドのツクヨミ、ホスセリ

世界を「光と闇」に分け、前者を善・正義、後者を

例えば、アマテラスはたしかに天皇家につながり天皇家の正統性を基礎づける存在ではあるが、決して絶対的善や絶対的権力者としては描かれておらず、絶対的に正義の存在として敵対者を抹殺するわけでもない

その証拠に、スサノヲはアマテラスとの対決に勝つから、一瞬、スサノヲ

男性的・父性的な権力と女性的・母性的な権力
天と地下
高天原系の神々と出雲系の神々
水と火
海と山
光と闇

これらの相反する概念が、一時的・局所的には対立をするが、一方がどちらかを抹殺したり、滅ぼしたりするわけではない。

どちらかが優位に立ちそうになっても、必ず「揺り戻し」が起きて、もとの均衡状態(バランスのとれた状態)に戻っていくのである。

このように、古事記は、様々な要素のどれか一つが突出することを避けるべき、随所で「バランス」を保つことが試みられている。

3つのトライアッド構造の共通点→中心は「無」 だれが意思決定しているのかわからない 日本企業と共通

バランス構造と中空理論

ここで言われていることは、現代の日本社会の「出る杭は打たれる」にもあてはまる

仏教の例

明治維新の例

日本の大企業の例

所感

「〜だから日本人はだめだ」でもないし、「だから日本人はいまのままでいい」でもない。

個人、集合体としての日本人の傾向とパターンを理解しておく

その上で、現代に適応させてアクションさせていく

パターンを知るために「歴史」もいい しかし特に日本では、歴史と神話のつながりが深い

神話という宝物を通して日本人を見抜く視点を提供してくれる

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