「右」と「左」の謎
右翼、左翼、右派、左派、リベラル、保守、ネオリベ・・・など、思想や主義主張を表す言葉はたくさんありますが、改めて「その意味は?」と問われると、答えに詰まる人も多いのではないでしょうか?
僕は学生時代、これらの言葉の意味を本気で調べてみましたが、「わかるようでわからない」・・・完全に腹落ちできる結論をつかむことはできませんでした。
思うに、「右」や「左」といった用語の意味を正確に把握することを難しくしている要因は、
・人によって使っている意味が違う
・文脈によって意味が異なる
・時代によって意味が変遷している
・政治、思想、経済など、領域によって使われ方が違う
というような点にあります。
(つまり、「これが正解!」という定義が存在しないということです)
長年もやもやしていたのですが、経済学者の井上智洋氏の著作にわかりやすい整理が載っていたので、ご紹介したいと思います。
(今回は井上氏の整理に従い、主に経済的な視点における分類を紹介します)
以下、井上氏の『AI時代の新・ベーシックインカム論』から重要なポイントを抜粋していきます。
右翼と左翼は対立しない?
まずは「右翼」と「左翼」についてです。
これらの2つの言葉の起源はフランス革命にまで遡るというのは有名な話です。
すなわち、1789年の国民会議で、それまでの支配体制である絶対王政を保守する王党派議場の右側に座り、立憲君主制へと革新する勢力が左側に座ったため、それぞれ「右翼」「左翼」と呼ばれるようになりました。
ですが、前述の井上氏の整理によると、「右翼と左翼は実は対立概念ではない」とのこと。
図1を見てください。

右翼の本質の一つは「ナショナリズム」にあります。
ナショナリズムとは、自国や自国民、自民族を重視するという意味です。
ナショナリズムに対立する概念は、「インターナショナリズム(国際主義)」です。
共産主義(マルクス主義)は当初、単に経済的平等を目指すだけでなく、「労働者は祖国を持たない」(共産党宣言)として、世界革命を目指す国際的な運動として展開されました。
一方、左翼の本質は「経済的平等の追求」にあります。
以上の理解を前提とすると、表にあるとおり右翼と左翼は座標軸において「対立」するのではなく「直交」する関係にあります。
そのため、井上氏の整理によれば、自国内での経済的平等を追求する限り右翼と左翼は対立するわけではなく、両立可能な場合もあるということになります。
右翼と右派はどう違うの?
先ほどの図1を眺めてみると、他にも気がつくことがいくつかあります。
例えば、体制(時の政府)の枠内でものごとを考えるかによって、思想の呼び方が変わるということ。
日本語としての「左派」は中道左派を指す場合が多く、「資本主義体制や国家体制の転換を図るのではなく、体制の枠内で穏健的に経済的平等を目指す」という意味を持ちます。
一方、「右派」は「経済的平等vs経済的自由」という対立軸における、 経済的自由を重視する立場を指し示す言葉として使われることが多いといえます。
(例えば、経済学者のフリードマンは右派と呼ばれることが多いが、それはナショナリストという意味ではなく、経済的事由を重んじる立場を意味しています。)
ひとまとまりに「右の思想」「左の思想」というのではなく、表1のように政治的な文脈なのか経済的な文脈なのかを明確にすると、混乱なく理解することが可能です。
最近よく聞く「ネオリベ」って?
先ほどの図1は右翼・左翼、右派・左派に関するやや「伝統的な」整理だっといえます。
ソ連が崩壊した20世紀末以降の政治経済思想は、従来からの右翼vs左翼というイデオロギー対立よりも、「ネオリベvs反ネオリベ」という対立軸の方がずっと重要な意味をもちます。
そこで、昨今どんどん注目度を増す「ネオリベ」の思想的立ち位置を明確にするため、図1の縦軸を入れ替え、「進歩主義(政治・社会的自由)」と「権威主義」の対立軸としたいと思います。
権威主義とは伝統的な(旧来型の)権威を重んじる価値観であり、進歩主義は個人の自由を尊重します。
例えば、君が代斉唱を強制したがるのが権威主義であり、個人の自由だと考えるのが進歩主義です。
また、男女同権やLGBTの権利を認めたがらないのが権威主義であり、認めるのが進歩主義です。

この座標軸においても、やはり右翼と左翼は対立するのではなく直行しています。
また、経済的平等と政治・社会的自由の両方を主張する「リベラル」と、経済的自由を主張するとともに権威主義者でもある「新保守主義(ネオリベ)」は真逆の位置に立っているのが興味深いポイントです。
リバタリアニズム(自由至上主義)は経済的自由について論じる場合には新保守主義(ネオリベ)と重なることもありますが、リバタリアニズムは政治・社会的自由をも重んじる点が異なっています。
例えば、国家が個人の自由を侵害するという点を捉えてリバタリアンは徴兵制度に反対しますが、新保守主義(ネオリベ)は徴兵制度に肯定的である場合が多いといえます。
また、同性愛についてリバタリアンは個人の自由だと考えますが、新保守主義(ネオリベ)は伝統的価値観に基づいて否定する傾向にあります。
経済を学ぶ時には「my 座標軸」 が大切!
冒頭にも書いたとおり、右翼・左翼、右派・左派などといった言葉は文脈や時代によってかなり意味が変わってくるので、本記事の内容で「全部わかった!」などと思っては決していけません(笑)
ただ、今回ご紹介した井上氏の整理を頭に入れた後は、経済の勉強がすごくやりやすくなった感覚があります。
そしてそれは、経済に関する様々な主張を目にするときに、その主張をしている人の「座標軸上の立ち位置」を理解しておくと、意見の理解度がとても深まるからだとわかりました。
座標軸のとり方は、今回ご紹介したものの他にも、色々と考えられます。
経済を学ぶときには、自分なりに見通しがききやすい「my 座標軸」を頭に入れ、そこに各々の主張をプロットしていく感覚で勉強していくと、理解が早く&深くなりそうですね。
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